第10章 彩光✿
「人が増えてきたな」
そう言って窓の外を眺めていた五条先輩は、サングラスを外してテーブルに置くと、再びぼんやりと宵闇に視線を向けている。
「花火、もうすぐ始まるんですかね」
そう返すが、五条先輩はどこか上の空だ。
店内の他の部屋や席にもお客さんが入っているようで、ガヤガヤと色々なところから話し声が聞こえてくる。
しばらくの沈黙。
ストローでグラスの中を掻き混ぜると、カラカラと氷がぶつかる音がして、炭酸が弾ける。
その様子をぼんやり眺めていると、
「なぁ」
五条先輩が突然私に話しかけてきて、少しビックリしてしまった。先輩の青い瞳が、私の顔を覗き込んでくる。
「ゆめ、」
先輩が口を開いた瞬間、大きな音と光が辺りを照らした。夜空に、色とりどりで大きな花火が打ち上がる。
「わあっ」
突然の大きな音で我に返った私は、思わず窓に顔を近付ける。
幾重にも重なって打ち上がる花火は迫力満点で、大輪の花が次々と空で咲いては消えていく。
暫くは、その迫力ある光景に圧倒されていた。
「ゆめ」
その時、また五条先輩が私の名前を呼ぶ。
花火の音が大きくてよく聞こえないので、彼の方を向こうとした。
「五条先輩、花火で聞こえな……」
けれど、その続きの言葉は出てこなかった。
次の瞬間、後ろから、ふわりと優しく抱きしめられる。思わずグラスを落としそうになるも、身動き出来ずに固まっていると、私の肩の辺りに五条先輩の顔が寄せられる。
「あの……先輩?」
私が声をかけても、先輩から返事はない。何かを確かめるように、更にぎゅっと抱きしめられた。
五条先輩の吐息が首筋に当たる。熱いソレが肌を掠めてくすぐったい。
汗の滲んだ素肌に彼の髪の毛先が当たってチクチクするけど、決して不快な訳じゃない。寧ろ心地好いとさえ思っている自分がいる。
「……俺」
蚊の鳴くような小さな声だったけど、静かな部屋だから聞き取れた。
「オマエの事、好き、なんだよ」
そう言って、五条先輩は私の首筋に顔を埋めた。車の中で聞いた告白よりも、今の方がドキドキしている。
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