第10章 彩光✿
そうして強制的に連れてこられたのは、お祭り会場の神社から出て、少し歩いた所にあるビルの前。
先輩の背から下ろされて建物に入り、エレベーターで上がると、そこにはおしゃれな和風カフェがあった。
「え?ここですか?」
驚いて尋ねると、五条先輩は立ち尽くしたままの私の手を引いて、お店の中に入っていく。
中に入ると、カランと軽やかにベルが鳴る。
畳張りのお座敷やテーブル席もある、落ち着いた雰囲気のお店だった。五条先輩は女性店員さんに予約していたことを伝えると、私たちは奥の個室のお座敷に通された。
扉を閉めて出ていく店員さんの名札には、「店長」「五条」の文字。五条先輩の親戚のお店なのだろうか。
促されるまま入った部屋。
窓から見える夜空に、ハッと気付いて五条先輩を振り返ると、得意気に笑みを浮かべていた。
「穴場らしいぞ。ここなら完全に個室だし、足を気にせずに花火鑑賞出来るだろ」
確かに、この和室は静かで人の視線も気にならない。
落ち着いて窓から花火を見ることが出来そうだ。五条先輩にお礼を言うと、「ほら、貼っとけ」と言いながら、絆創膏を渡してくれる。
今日はどこまでも先輩が優しい。
窓際に移動して外に目を向けると、花火の時間が近づいているのか、建物の下の方を覗き込むと、人がちらほらと集まってきていた。
「絆創膏貼ったので、花火の前にお手洗いに行ってきますね」
「ああ、転んで更に絆創膏の数増やすなよ」
「失礼な。大丈夫ですよ」
――いつものノリの、なんてことない会話だった。
けれど、席を外した選択が後々の私を追い詰めることになろうとは、この時は微塵も気付いてなかった。
お手洗いから部屋に戻ると、オーダーしていた飲み物が既に用意されていた。
二人分のサイダーがテーブルに並んでいる横で、五条先輩は携帯を弄っていた。先輩からグラスを受け取り、窓際に座布団を敷いて、花火が始まるのを待つことにする。
シュワシュワと音を立てているサイダーを少しずつストローで飲んでいると、隣に五条先輩も座布団を持って移動してきた。
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