第10章 彩光✿
五条先輩の背中は大きくてしっかりしていて、細めに見えるけど意外と筋肉がついている。体格差を実感する背中だった。
いつも意地悪してくる人に優しくされて、嬉しい気持ちや照れくさい気持ちが入り交じって、なんだかソワソワしてしまう。
「先輩……すみませんでした」
「ん?なんか言ったか?」
五条先輩は前を向いたまま、背中越しに聞き返してくる。
「せっかく楽しみにしていたお祭りなのに、先輩にご迷惑かけて申し訳ないなって」
「……そうだなぁ、感謝しろよ。本当は、術式使ってオマエを片手で引きずっていくのも出来たわけだし」
口調は悪いのに、気遣いは感じるからこそ申し訳なかった。私が意気消沈していると、五条先輩は呆れたような声を出す。
「任務じゃ足手まといになるが、普通の怪我なら遠慮なく俺を頼れよ」
五条先輩はそう言ってフンッと鼻を鳴らした後に、小さく笑った。先輩のいつもと違う声色に、私の胸はざわついた。
「足、まだ痛むか?」
優しく響く声。今は私だけが聞ける声かもしれないと思うと、なんだか嬉しい。
私が短く否定の返事をすると、「そ」と彼から一言だけ返ってきた。
「花火大会を見ずに帰っても構わないけどな……帰るか?」
五条先輩が聞いてきたので私は少し考えて首を横に振った。折角ここまできて花火を見ずに帰るなんて勿体ない。
でもこの足じゃあ眺めの良いところまで歩いて行けそうにない。二人で頭を悩ませていると、
「ちょっと待ってろ」
と、五条先輩は私を一旦降ろしてから、携帯を出して電話し始めた。
どこかに予約を取っているようなその電話が終わると、五条先輩は私をまた背負って歩き出した。
「先輩、どこにいくんですか?」
全く、行き先の見当がつかない。私が慌てて聞くと、五条先輩は含み笑う。
「着いてからのお楽しみだな」
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