第10章 彩光✿
「どうかしたか?」
異変に気付いた五条先輩が、しゃがんで私の足を見る。サングラスを指で持ち上げて鼻緒の部分を凝視すると、彼の眉間に皺が寄ったのが分かる。
「血、出てるな」
「射的に夢中になってて気付かなかったけど……少し、痛いです」
そんなに長時間履いた訳じゃなかったのに、擦れてしまった場所は皮が剥けてヒリヒリと痛んでいた。
「これじゃ歩けないし、ティッシュか何かで血が出てるところ保護します」
そう言って、私は下駄を脱ごうと屈みかけたが、五条先輩に制止された。
「背負ってやるよ」
「……へ?」
聞き間違いだろうか。
私は五条先輩の言ったことが信じられなくて、上ずった変な声を上げてしまった。
思考停止して暫く固まっていると、焦れたように五条先輩が溜め息を吐くと、私に背を向けてしゃがんだ。
「ホラ、早くしろ」
有無を言わせない声で五条先輩が急かしてくる。どうやら、私に選択権は無さそうだ。
戸惑いながらも、先輩の広い背中に近づく。
「……よろしくお願いします」
そう言って、私はおずおずと五条先輩の肩に掴まる。肩じゃなくて首に腕を回すよう言われ、恐る恐る指示に従う。
私を軽々と持ち上げて立ち上がった五条先輩の後頭部に、あろうことか思いきり鼻をぶつけてしまった。
衝撃で「へぷっ」と変な声が出る。
その瞬間に「ブフッ」と噴き出す音が聞こえて、先輩の体がプルプル震えていた。私の失態が笑われているのが分かってしまい、穴があったら入りたい気分。
そのおかげか、緊張が解けた。
夏夜の帳の中、触れた五条先輩の背中は、何だか心地よかった。肩に頬を寄せると、安心する香りがする。
先輩のやわらかな白髪が顔を擽るので、歩いて揺られる度にこそばゆくて、身じろぎした。
同時に胸がドキドキと高鳴って落ち着かない。
「重くないですか?」
私が聞くと、五条先輩は「べつに」と短く答え、こちらを気遣ってくれているのか、ゆっくりめの足取りで歩いてくれていた。
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