第10章 彩光✿
五条先輩は、一番近くにあったリンゴ飴の屋台の前で立ち止まった。
「わ……リンゴ飴、なつかしい」
私が思わず呟くと、
「オッチャン、これ2つ」
五条先輩は私に構わず信玄袋から財布を出し、私の分まで勝手に頼んでしまう。
「あ、お金……」
私がそう言って巾着から財布を取り出すが、五条先輩はそんな私の手を制止しして「フッフッフッ」と得意げに笑った。
これでもかと小銭が大量に入っている財布をドヤ顔で見せられ、思わず吹き出してしまった。
しかも、がま口財布。
気合いの入り方が段違いだ。
「先輩、重くないですか?それ」
「あ?出店を制覇するなら、これくらいは必要だろーが」
五条先輩はどこか嬉しそうにそう言いながら、店主の手からリンゴ飴を受け取り、それを私に寄越した。
お礼を言いながら私がリンゴ飴を受け取ると、彼は鼻歌と共に屋台通りを眺めながら歩き出す。
私も慌ててその後を追う。
「ん……甘くて美味しい」
私は歩きながらリンゴ飴を一口食べた。口の中でパリッと薄い飴の音がしたかと思うと、すぐにリンゴの芳醇な甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
久しぶりに食べた懐かしい味に、頬が緩むのを抑えられない。
リンゴ飴をペロペロと舐めていると、視線を感じた。
「……なんですか?」
視線の主の五条先輩を見上げると、五条先輩は「別に」と言った。
そして何故か私の口元をじっと見つめるので、恥ずかしくなってリンゴ飴で口元を隠した。
それから、五条先輩は焼きそばやイカ焼きを食べていた。
私がチョコバナナを食べている間、先輩の姿が見えなくなったと思ったら、更にかき氷まで手にしていて、完全に縁日を満喫している。
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