第10章 彩光✿
車が止まるのを待ちながら、降りる準備をする。先に車を降りると、夏特有のぬるい風が私の頬を撫でた。
ここは神社のすぐ近くの駐車場のようだ。
子供連れの家族や、カップルたちが夏祭りの会場に向かっていくのが見えた。
五条先輩は運転手の人に、帰る頃にまた連絡することを伝えて、こちらに戻ってきた。
「ほら、行くぞ」
私の手首を優しく引っ張る、大きな手。
軽く指が絡まって、次の瞬間には包み込むように手を繋がれる。さっきの出来事も相まって、私は驚いて隣を見上げる。
五条先輩は少し照れ臭そうにしながらも、握っている手とは反対の手で頭をガシガシ掻いていた。
「オマエとはぐれたら、後から傑がうるさいからな」
そう言って、また私の手を引いて歩きだす。私は何も言えず、五条先輩に手を引かれるままに歩く。
だんだんと近付いてくる祭りの喧騒と、行き交う大勢の人。その中で、ただ五条先輩の少し後ろを俯きがちに付いていった。
前を歩く広い背中を、そっと盗み見る。
今ここで私から手を放そうとしてみても、きっと彼は手を離さないだろうと思った。
どうして私は先輩と手をつないで歩いているんだろう。そして、どうして私はこんなにも気分が浮かれているのだろう。
嫌いだと思っていたのに、キスも触れられるのも、嫌じゃなかった。何故なのか。
自分に問いかけても答えが見つからない。
先輩の手が熱いのか、私の顔が熱いのか分からなくなってきた。繋いだ手を微かに握り返し、自問自答しながら神社の最初の鳥居をくぐる。
「とりあえず、何か食おう……かと思ったが、予想以上に人が多いな」
辺りを見渡した五条先輩の言葉に頷いて答える。
彼の言葉通り、神社の境内は浴衣や私服の人々でごった返していた。
出店の列の通りに様々な色と音が溢れている。屋台の灯りに照らされた道と人ごみは活気に溢れている。
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