第1章 背徳は蜜の味✿
「ゆめ、手を噛んでもいいよ」
傑お兄ちゃんはそう言うと、私の口元に再び自分の片手を宛てがった。言われた通りに、その手に軽く噛みついて声を我慢していると、お兄ちゃんの嬉しそうな声が聞こえた。
「良い眺めだ」
そう言って、私のお尻を撫でてから、お兄ちゃんは律動を再開する。
中が擦れて熱い。打ち付けられる度にじくじくとして、お腹の中から全身が甘く痺れる。頭がふわふわして、たまらなく気持ち良い。
弱い電気に触れているような感覚に、手足まで痺れてきそうだ。湿った音が鳴る度に、現実に戻ろうとする思考が溶ける。
それと同時に、聞き慣れた声がドアに近付いてくることで、そちらを意識してしまう。
「……盆に挨拶回り?そんなの家の奴らがちゃちゃーっと済ませて……分かってるよ。8月に一回実家に帰りゃあいいんだろ」
耳に飛び込んできた五条先輩の声に、心臓が止まりそうになった。実際には見られていないのに、羞恥でどうにかなりそうだ。
他の人の気配は感じない。誰かと電話しているのか、いつもよりゆっくり歩いている先輩に、私は気が気じゃなかった。
「……っ……ふ……」
お願いだから気付かないで。
早く通り過ぎて。
そう願う状況の反面、傑お兄ちゃんは動きを緩めながら、わざとらしく私の弱い所を押し上げて圧迫するように刺激してくる。
「……ぅ……っ……んっ」
両手で口を塞いで、漏れ出てしまいそうになる声を必死に押し殺す。傑お兄ちゃんはクスッと笑って、「頑張れ」と小声で囁いた。
「まぁな。単独任務も入るし、ちょっと忙しいかもな」
いつもよりトーンの高い、得意気な五条先輩の声。きっと楽しそうに実家の誰かと電話をしているであろうことが容易に想像できる。
「……分かったよ。また連絡する」
先輩がそう話した直後、目の前でガチャリとドアノブが回る音がした。
「……っ……!」
思わず声が出そうになって、慌てて傑お兄ちゃんにしがみついた。
「あ、間違えた。こっち俺の部屋じゃねーや」
五条先輩が間違えたらしい。
鍵がかかっていた傑お兄ちゃんの部屋は、開けられることはなかった。ほっとしたのも束の間、隣の部屋のドアの開閉の音がする。五条先輩が寮の自分の部屋に戻ってきてしまった。
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