第9章 桔梗の君
私は顔の火照りを手のひらで覆いながら五条先輩を睨んだが、
「んな可愛い顔されたって怖くない」
と彼は楽しげに笑っただけだった。
「なっ……なに言って……」
私が口をパクパクさせながら反論しかけたところで、五条先輩に人差し指を立てて阻止される。
「オマエのその顔、サイコー。動揺すると、言葉が出なくなるんだな」
「からかってるなら怒りますよ」
「あーもう、うるせーな。もう一回キスしてほしいって?」
「そんなわけ……っ」
反射的に言い返そうとした時、五条先輩の顔がまたしても近くなり、澄んだ青に射竦められる。
その全てを呑み込んでしまいそうな美しさに息が詰まった。五条先輩は楽しげに微笑み、私に迫り来る。
私はその瞳を見つめ続けられず、目をぎゅっと瞑った。
すると、柔らかい感触と共に頬に何かが掠めるような感覚。驚いて目を開けると、五条先輩は私の髪を一房掬い取り、唇を落としてみせた。
思わず顔を背けようとすると「だーめ」と言われてしまい、五条先輩に固定されてしまった。
「いつか、ゆめが自分から俺のところへ来るように……俺のことが好きで好きで堪らないって、そう思わせてやるよ」
青い瞳の視線に絡め取られ、私はまるで金縛りにあったかのように身動きひとつ取れなかった。
五条先輩の言葉を頭の中で反芻させながら、彼の熱の篭った瞳から目が離せない。
息をすることを忘れるほど、胸が切なさで苦しくなる。
どうしてなのだろうか。
五条先輩のこんな台詞を聞く度に、こうも胸を貫かれるような痛みが走るのは。
その痛みと同時に沸き起こる甘い悦びをどう消化したらいいのだろうか。
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