第9章 桔梗の君
首に受ける生温かい感覚に、彼の肩を押して止めようとすると、五条先輩の指がくいっと私の顎に添えられた。
強制的に上を向かされ、彼の瞳が真っ直ぐ私を覗き見る。その蕩けるような甘い視線とぶつかるだけでドキドキと鼓動が跳ねた。
彼の綺麗な瞳に映る自分すらまるで別人みたいに色っぽくみえて、私は目を逸らしてしまった。
「もー、ゆめってば恥ずかしがり屋さんなんだから」
五条先輩はわざとらしくそう言って、私をからかってくる。でも私はそれに何も答えられないまま、視線を逸らし続けるしかなかった。
「なぁ……こっち見ろよ」
熱を帯びた五条先輩の声に恐る恐る視線を合わせると、彼は満足げに微笑んだ後、私に口付ける。
甘いキスに体の奥から溶けていくようだ。夢中になって彼にしがみつくと、五条先輩が優しく私の髪を梳いてくれる。
気持ち良さと息苦しさから涙が滲み、目尻にそれが溜まっていった。
「ん……ぁっ、ごじょ……せんぱぃ……」
長い口付けを終えて、五条先輩は私を解放する。
どちらのものか分からない唾液が口の端から零れる。互いの舌先が銀の糸を引いている光景にくらりとした。
五条先輩は私から体を離して、舌で自分の口の端を舐める。その仕草から滲み出る色気に、どぎまぎしてしまう。
「浴衣代、これでチャラな」
そう言って笑う五条先輩を見上げる。
私のリップの赤が、彼の形良い唇にうっすらと色移りしてしまっている光景に、口付けを交わしたことの紛れもない事実を突き付けられるようだった。
刺激が強すぎて、目眩がした。すべてが夢のようで、なんだか現実味がない。
「もう……五条先輩、嫌いです……」
「あっそ。俺は好き」
私が気を紛らわせたくて意地悪で言うと、五条先輩は照れた様子ひとつなく飄々と答えた。
余裕綽々といった態度で満足げに口角を上げると、私の髪に唇を寄せる。
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