第9章 桔梗の君
「どうして……私、なんですか……」
五条先輩ならば、相手に不自由はしない。引く手あまた、選び放題なのに。なぜ私なのだろうか。
その答えが見つからなくて、つい尋ねてしまう。
五条先輩は少し拗ねたように口を尖らせる。
「……理由なんて必要か?俺はオマエと一緒に居たいの。いーだろ、それで」
自信満々な笑みを見せたかと思えば、自信がなさげに眉尻を下げて答えを欲しがるような瞳で私を見つめる。
普段の傍若無人っぷりも形無しとも言える表情の移り変わり。
見ていて飽きなかった。
ころころと変化する五条先輩の表情から、目を離すことが出来なかった。
そんな五条先輩につい絆されてしまうのだから、私も傑お兄ちゃんのことを悪くは言えないな、と内心苦笑する。
「間もなく神社に着きます」
見計らったような運転手さんの声で、五条先輩の動きが止まった。
それと同時に、ほっと安心してしまった自分がいて、無意識に五条先輩の浴衣をきゅっと握っていた。
それが咎められることもなく、大きな手で上から軽く握り返される。
彼は再びサングラスを掛けると、私の頭を撫でてから座席に座り直す。
もっと、先輩のことを知りたい。
まだうるさい己の鼓動を抑えるように、私は胸のあたりに手を添えた。
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