第9章 桔梗の君
五条先輩の腕が私の背中に回って、強く抱き締められる。彼の心臓が、うるさいほどに音を立てているのが聞こえてきて、先程の告白が嘘ではないのだと思い知らされる。
普段あんなに人間離れした強さを見せる五条先輩を身近に感じて、何だか安堵の溜め息が漏れた。
なんだろう。傑お兄ちゃんと一緒にいる時とは違う、この感じ。
いつも意地悪ばっかり言っていた五条先輩の行動が、私への愛情の裏返しだと知ると、なんだか照れてしまう。
私は傑お兄ちゃんのことが好きなはずなのに、何でこんなに五条先輩に心が揺れ動くのか自分の中で答えが出ない。
ただ、五条先輩の体温に包まれる感覚に緊張が緩んでいくのを感じながら、その胸に縋り付くような体勢になってしまう。
五条先輩は私の髪を撫でた後、耳に口付けてから唇をピタリと当てた。
「ゆめ」
五条先輩の声色が急に熱っぽくなったかと思うと、黙って私の首筋にキスの雨を降らせ始める。
ちゅっ、と音を立てて何度もキスを落とされて、くすぐったさと僅かな快楽に身悶えると、五条先輩の腕の力が増した。
「……ゆめ」
私の名前を甘やかに何度も呼んで、五条先輩は私を愛おしそうに見つめてくれる。
私は何も言えずに五条先輩の顔をじっと見ることしか出来ない。
「なぁ、ゆめ」
その声は、まるで恋人の名前を呼ぶかのように甘い余韻を残す。
五条先輩は私の名前をたくさん呼んでくれる。
それが何だか無性に嬉しくて、もっと呼んで欲しい、なんて思ってしまって、私は恥ずかしさに耐えられなくなって自分の顔を手で覆った。
「も……もう私の心臓が、限界、なのでっ……勘弁してください……」
「無理な相談だな。ぐずぐずに甘やかして、俺のことしか考えられないようにしてやる予定だから」
五条先輩の囁きは魔法みたいで、私の心をふわふわと浮つかせる。
「んっ……五条先輩、あの、待って……」
「ゆめ……っ……」
耳のすぐ傍に感じる熱い吐息ですら、気持ち良いと思ってしまうなんて。
五条先輩の舌が私の首を這い始める。
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