第9章 桔梗の君
もう穴があったら入りたい。過去の己のしくじりが恥ずかしすぎて、私は両手で頬を覆って俯く。
「その調子で、よく呪術師目指そうと思ったよな。最悪、オマエが足手まといになって、三人共オダブツだった可能性もあるだろ」
「何もそんな言い方しなくたって良いじゃないですか……」
傷口に塩を塗るような発言に、ムッとした私が言い返すと、先輩はやれやれと言いたげな風に溜息をつく。
そして、今まで散々からかうようにニヤニヤと悪い笑みを浮かべているだけだったのに、不意に表情が消えた。
私を真っ直ぐに見つめてきて、急に真顔になる五条先輩が何だか怖くて、心臓が小さく跳ねた。
「他の術師の足を引っ張るわ、雑魚相手に臆すわ……オマエ、死ぬぞ?」
真剣な声色で言う先輩に、私は言葉を失って唇を噛み締めた。いつもの軽口とは違う。叱責するようなその言い方は、私の頭を真っ白にするくらいの威力を持っていた。
「……どうせ……っ、私は傑お兄ちゃんや五条先輩みたいに上手く立ち回れない雑魚ですよ」
いじけたように私が言うと、五条先輩は鼻を鳴らすも、少しだけトーンダウンした様子で言葉を続けた。
「オマエが傑を追いかけて入学して、本格的に呪術に触れて、蛇の式神を従えて……約三ヶ月か。入学したての時はマジで弱っちくて、式神にさえソッポ向かれてたしな」
「入学早々、五条先輩に地面に転がされて笑われたのはイイ思い出ですね」
嫌味で返してみると、軽く肩を小突かれた。
それでも、五条先輩が私のことをちゃんと見てくれていたんだと思えば悪い気はしなかった。
私が悩み過ぎて煮詰まった時は、弱いとか馬鹿にしながらも、突破口になる助言を与えてくれる先輩だ。
気まずい沈黙が流れた後、ぽんっと頭に大きくて温かい手が乗せられた。
「まぁ……雑魚には違いないが、まだ一年目だし、呪力の扱い方、体術はこれから伸びるだろ」
肯定的な言葉を掛けられ、チラリと横目で彼を見る。
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