第9章 桔梗の君
「……誰かと祭りに行くのって、こんな感じなんだな」
横から聞こえた五条先輩の声に、私は思わず顔を上げた。前を向いたまま、首に手を当てながら少し照れくさそうな表情をする横顔。
心臓がトクリと脈打った。
私の知らない表情ばかり見せてきて、反則だ。いつもの知ってる五条先輩じゃないみたい。
まだ隣を歩く勇気が無かったので、私は五条先輩の少し後ろを歩く。私が何も答えずに俯いていると、五条先輩は前を向いたまま私に声を掛けた。
「神社までは、さっきと同じ車で行く。手荷物は車に入れとけ」
「……あの、先輩……」
「なんだよ、言いたいことあんならハッキリ……」
「ありがとうございます」
私はやっとのことで、一言を口にするので精一杯だった。
なんだか顔が熱くて仕方が無い。
振り向いた五条先輩は、そんな私を見ると、何も言わずに小さく笑って再び前を向いた。
先程の運転手さんが待機している車まで、無言で二人で歩いた。
私の歩幅に合わせて歩いてくれてるんだと思ったら、何だかくすぐったい。いつも意地悪ばかり言う癖に、こんな時だけ優しいなんてずるいと思う。
車まで着いたので、私が座席に腰を下ろすと、五条先輩は隣に座ってサングラスを掛け直していた。
運転手さんの手によりドアロックが掛けられて、車が静かに発進する。何となく気まずくて、私は窓の外に視線を移して、黙って景色を眺めることにした。
「そういえば、ゆめ」
不意に五条先輩が口を開いた。
「この間の任務で、雑魚呪霊相手に腰抜かして尻もちついたんだって?」
ダッセー奴、と小馬鹿にしたような声が横から飛んできた。
「え……そ、その話……なんで……」
なぜ五条先輩が知っているのか。
バッと勢いよく彼の方を向いてから、しまったと思った。普通に否定すれば良かった。
「しかも、その後に七海の奴に抱えられたってか?灰原が素直にペラペラ話してくれたぞ」
悪魔のようにケラケラと笑う五条先輩は、追い打ちをかけるように続ける。
一番知られてはいけない人に、自分の失態を知られたと痛感する。
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