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【呪術廻戦】薄夜の蜉蝣【R18】

第9章 桔梗の君



「……誰かと祭りに行くのって、こんな感じなんだな」

横から聞こえた五条先輩の声に、私は思わず顔を上げた。前を向いたまま、首に手を当てながら少し照れくさそうな表情をする横顔。

心臓がトクリと脈打った。

私の知らない表情ばかり見せてきて、反則だ。いつもの知ってる五条先輩じゃないみたい。

まだ隣を歩く勇気が無かったので、私は五条先輩の少し後ろを歩く。私が何も答えずに俯いていると、五条先輩は前を向いたまま私に声を掛けた。

「神社までは、さっきと同じ車で行く。手荷物は車に入れとけ」
「……あの、先輩……」
「なんだよ、言いたいことあんならハッキリ……」
「ありがとうございます」

私はやっとのことで、一言を口にするので精一杯だった。

なんだか顔が熱くて仕方が無い。

振り向いた五条先輩は、そんな私を見ると、何も言わずに小さく笑って再び前を向いた。

先程の運転手さんが待機している車まで、無言で二人で歩いた。

私の歩幅に合わせて歩いてくれてるんだと思ったら、何だかくすぐったい。いつも意地悪ばかり言う癖に、こんな時だけ優しいなんてずるいと思う。

車まで着いたので、私が座席に腰を下ろすと、五条先輩は隣に座ってサングラスを掛け直していた。

運転手さんの手によりドアロックが掛けられて、車が静かに発進する。何となく気まずくて、私は窓の外に視線を移して、黙って景色を眺めることにした。

「そういえば、ゆめ」

不意に五条先輩が口を開いた。

「この間の任務で、雑魚呪霊相手に腰抜かして尻もちついたんだって?」

ダッセー奴、と小馬鹿にしたような声が横から飛んできた。

「え……そ、その話……なんで……」

なぜ五条先輩が知っているのか。

バッと勢いよく彼の方を向いてから、しまったと思った。普通に否定すれば良かった。

「しかも、その後に七海の奴に抱えられたってか?灰原が素直にペラペラ話してくれたぞ」

悪魔のようにケラケラと笑う五条先輩は、追い打ちをかけるように続ける。

一番知られてはいけない人に、自分の失態を知られたと痛感する。



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