第9章 桔梗の君
再び私の頭の天辺から爪先までを眺め始めたので、
「やっぱり、何か変ですか?」
その視線が気になった私が不安げに問うと、おもむろに先輩が一歩近付いて、青い双眸に覗き込まれる。
そして、私の方へと手を伸ばしてきた。
目を逸らせないまま、五条先輩の手は私の頰を掠めて、そのまま髪へと指先が伸びていき、かんざしの花飾りをツンと弾く。
「ゆめ、すげぇ似合ってる」
その言葉に、今度は私が面食らった。
けれど、先輩の方を見れば、彼はやっぱり私をからかっているような意地悪な笑みを浮かべている。
「またからかってます?」
むっとしながらそう言えば、五条先輩は更に笑みを深めた。
「キレイだな、か ん ざ し は」
一瞬だけ眉尻が下がったが、すぐにそう言って軽口を叩く彼に、私も調子を合わせる。
「私がつけているので当然です」
「は……生意気」
私を見下ろしている五条先輩の手が、私の頬に触れた。突然のことにドキッとする間もなく、軽く頬をつねられて驚いた。
「い、いひゃいです」
「ひでぇ顔」
五条先輩は鼻で笑ってから手を離してくれたので、私は頰を擦りながら不満げな眼差しを向けた。
けれど、堪えきれなかった五条先輩の口元も緩んでしまっていて、私までつられて笑ってしまう。
やわらかく微笑んでくれた五条先輩の姿は、それはとても珍しく、目を奪われる。
いつも意地悪で、ふざけている人がこんな風に笑うなんて知らなかった。
私は少し胸が苦しくなって、視線を床に落とした。
五条先輩の笑みも、浴衣姿も。全てが見慣れなくて、高鳴る心臓を押さえつけるかのように胸元の生地をぎゅっと握るが、どうしても胸のあたりもざわついたまま落ち着かない気持ちだった。
「ゆめ、行くぞ」
そう言って、紙袋を片手に持ち、五条先輩は歩き出した。下駄の音がカラカラと音を立てて響き渡る。
慣れない下駄に苦戦しつつ、足を進めると、すぐに彼が私の歩調に合わせてくれている事に気が付いた。
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