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【呪術廻戦】薄夜の蜉蝣【R18】

第9章 桔梗の君


見慣れた白髪に、紺色の浴衣の背中を見つけたので、私は五条先輩を呼び止めるように声を掛ける。

「五条せんぱ……」

けれど、その言葉は最後まで続かなかった。

私の声に気が付いたらしい先輩が、サングラス片手にこちらを振り向いたが、私を見るなり目を見開いたまま固まった。

既に緊張がピークに達していた私も、思わず硬直してしまった。

「オマエ……いや、なんつーか……」

それだけ言って、五条先輩が言葉を失った様子で私の頭から足先までを何往復も見るものだから、流石の私も恥ずかしくなってくる。

私も気の利いた一言が口に出来ず、無言のまま、お互いにモジモジしてしまった。

後ろから現れた店員さんは、穏やかな笑みで私達の顔を交互に見つつ、「お似合いですね」と言って笑う。

私は気恥ずかしくなって、熱を帯びる頬を手で押さえた。

少し照れながらも顔を上げたが、五条先輩はいつもの制服姿とは違って、浴衣姿になると随分と大人びて見えて、何だかとても緊張する。

無地だと思った彼の紺の浴衣には、細かい模様が入っていて、見るからに質の良さそうな生地だ。

いつものふざけた雰囲気は鳴りを潜め、五条家跡取りとして育てられた貫禄が漂っていた。

「馬子にも衣装ってやつか?そこそこ様になってるんじゃね」

と、五条先輩はそんな私の様子をまじまじと見つめた後で、素っ気なく言い放った。

「袖を通すまで、正直言ってすごく不安だったんですけど……」
「けど?なんだよ」
「せっかく五条先輩が選んでくれた浴衣だから、絶望的に不似合いだったらどうしようって思ってたので……よかった」

自然に、ふふっと、笑みがこぼれた。

五条先輩はへの字口で白い頭を掻きながら、何だか落ち着かない様子で瞬きを繰り返すと、黙り込んだ。



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