第9章 桔梗の君
そこには先程とは違う女性が一人いて、私の着付けを手伝ってくれることになっていた。
既に浴衣用の肌襦袢は纏っていたので、促されるまま、浴衣に袖を通した。
腰紐や伊達締めを着ける時など、その都度に苦しくないかと聞いてくれ、ぎゅっと強く締められた時も苦痛は無かった。
そして、いよいよ帯を締める。
「こちらの帯は長さもありますので、文字通り花が咲いたような形の『花結び』をさせて頂きますね」
そう言って店員さんは手早く飾帯の形を作って行く。
そして、小さめのパールを使った飾り紐を帯に付けてくれ、浴衣の着付けが完成すると、姿見の前へ誘導してくれた。
そこには、白と藍から成る上品な浴衣を見事に着こなした私の姿が写っていた。
プロの手が入ると、こうも大人っぽく見えるのかと、つい自分の顔を鏡でまじまじと見てしまう。
かんざしの飾りの桔梗の花弁にそっと触れてみれば、銀のワイヤーで作られた輪郭に、透明感のある紫の樹脂で作られたそれは、まるで生花みたいに美しい。
「よくお似合いですよ。そちらのかんざしも、五条様がご自分でお選びになられたものですね」
と、鏡越しに目が合った店員さんが微笑んでくれる。
私は少し照れ臭くなって、俯きがちになりながら自分の姿を眺めた。
五条先輩が桔梗のかんざしを選んだのは、夏だからだろうか。
そういえば桔梗の花言葉は何だったかと考えていると、もう一人の店員さんが部屋に来て、着付けをしてくれた女性の方に何やら耳打ちをする。
そして、私に一礼すると部屋を出て行ってしまった。
「五条様の着付けも完成しましたので、このまま参りましょうか」
その言葉と共に、下駄を箱から取り出した女性は、背に手を当てて私を部屋から連れ出す。
他の店員さんが、私の制服を入れた紙袋を片手に、先程の応接間のような部屋まで見送ってくれた。
私は慣れない下駄で転ばないように注意しながら、五条先輩の姿を探した。
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