第9章 桔梗の君
人形のように微笑を浮かべる綺麗な女性の方が二人、私の背後に位置取った。
「え、え……五条先輩……?」
「俺も浴衣に着替えてくるから、早く行って来いよ」
事態が飲み込めず、帯を手にしたまま狼狽える私を見て、五条先輩が恐いほど穏やかな笑みを向けてくる。
そして先輩が店員さんに目配せしてから軽く手を上げると、二人の女性が私の背中を押して奥の部屋に連れていってくれる。
「簡単にご説明を致しますが……」
と、女性店員さんが一通りの流れを噛み砕いて説明してくれた。
しかし、混乱した私の頭では、正直言って半分くらいしか理解が出来なかった。
頭にハテナマークを浮かべている内に、手早く高専の制服を脱がされ、胸のパッドが既に入っている浴衣用の薄い肌着を纏わされる。
「メイクとヘアセットも承っておりますので、どうぞこちらへ」
椅子を引いて促され、大きな鏡台の前に座る。
少女の手で変身させられるお人形のように、私はされるがままに大人しくしていた。
かろうじて自分で選べたのは、口紅の色と、玉かんざしの色。それでも、限られた色の中から選ばされた。
店員さんが手際よく私の髪を束ね、桔梗の飾りが揺れるかんざしと、控えめなサイズの淡色の玉かんざしを挿してくれる。
その後は丁寧なメイクを施された。
いつも数分程度の簡単なメイクで済ませる私には、何工程もある未知の世界だった。
「綺麗なお肌を活かしつつ、湯上がりのような透明感のある赤みを演出していきますね」
終始不安そうに視線を彷徨わせる私を気遣ってか、店員さんが説明しながら作業を続けてくれる。
「今回は浴衣なので、睫毛は自然な感じで、やや上げ気味程度にしますね」
ビューラーで睫毛を上げられ、上品なアイメイクも施された。
控えめにマスカラを塗られ、一番最後に唇に薄く紅を差して貰う頃には、恥ずかしそうにほんのり頬を染めた清純そうな女の子が鏡の中に居た。
「五条様からは細大漏らさず指示を頂いておりますので、次は着付けに移ります」
と、店員さんは恭しく頭を下げると、私を違う部屋へと移動させる。
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