第9章 桔梗の君
「五条様のご注文通りに仕上げさせて頂きました。白練に藍の有松絞を使用した浴衣で御座います」
「急な話で悪かったな。俺が想像していた通りだ。ゆめに似合いそうだな」
「恐れ入ります」
店員さんの笑顔に釣られるようにして、五条先輩は鷹揚に頷いた。
横で繰り広げられるやり取りから察するに、この浴衣は私のために、かなり短時間で五条先輩が作らせたものらしい。
仕立て途中で急に引き取り先が無くなってお店の人も困っていたところ、たまたま来店した五条先輩が、その浴衣の柄を見初めた。
急遽、私のサイズに合わせてお直ししてもらったという。
好きな色の話はこれのことだったのかと思いつつ、頭がついていかなくて呆然と立ち尽くしていると、五条先輩が横に来た。
「ゆめ、自信は無くても背すじは伸ばして、前を向いて堂々としていろ。自分はこの店に相応しい奴だと思い込め。じゃねーと、ナメられるぞ」
店員さんに聞こえないくらいの小さい声で囁かれ、慌てて背筋を伸ばす。
それでいい、と。
そう言いたげに先輩は口端をクッと上げて、横目で私を見てから、背中をポンと軽く叩いてきた。
店員さんは浴衣を丁寧に畳んで、緊張で固まっている私の前に差し出すと、
「どうぞお召しになって下さい」
と言った。私はその美しい柄の浴衣を受け取ると、おずおずと服の上から袖を通した。
「とてもお似合いですよ」
よくある定型文と、笑顔を張り付けた店員さんに、私もつられて愛想笑いを返してしまう。
五条先輩が近くにあった姿見を持ってきてくれたので、覗き込んでみたが、大人っぽいデザインが私にあまりにも似合ってなくて笑えてしまった。
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