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【呪術廻戦】薄夜の蜉蝣【R18】

第9章 桔梗の君


「わざわざ呉服屋さんで浴衣を仕立てたんですか?私も関わってるのに、一言も聞いてないんですけど……!」
「当たり前だろ、オマエに言ってねーし。呉服屋が浴衣も扱ってるのは普通だろうが。何カリカリ怒ってんだよ」

五条先輩は、何を今更グダグダ言ってるんだと、不思議そうな顔で私を見上げた。

駄目だ、お互いの常識が噛み合ってない。

私は若干のめまいを感じながらも脱力し、再びイスにストンと腰を下ろした。

「……私の浴衣は、レンタルで済ますワケにはいかないんですか」
「俺の隣を歩く奴に、そんなダセェことさせる訳ないだろ」

五条先輩から注がれる視線が鋭くなる。

庶民にとっては、ダサい、ダサくない以前の問題なのだけれど。五条先輩とは、色々と感覚が違いすぎる。

溜め息をつきながら、お金はどうしようかと思っていると、先程の店長さんとは違った、着物姿の綺麗な女性が現れた。

「五条様、ご準備が整いました」
「あぁ、案内してくれ」

五条先輩は立ち上がってその女性と共に部屋を出て行く。私は慌ててその後を追い掛けた。

小上がりになっている和式の部屋に入り、履き物を脱いで上がる。女性は更に襖を開けて、奥にある部屋へと案内してくれる。

衣桁が何台もあり、何着もの着物が収納されているその部屋の中央に、テーブルの上に大事そうに置かれている一着がある。

「こちらが今回の御品です」

店員さんはそう言いながらその白い布を抱え、五条先輩に手渡した。

「良い生地だ」

広げられた布は、紛れもなく女物の浴衣だった。

五条先輩は満足げに頷きながら、浴衣を広げて見つめている。私は呆然としたまま、その美しい布を眺めていた。

光を跳ね返すような化学繊維の強い白ではなく、空に浮かぶ雲のような優しい白。

藍色を使い、花々の繊細な模様があしらわれたそれは、ひと目見て上質なものだと分かった。

「あの……これ……」

あまりにも高そうで、今後の展開が怖くなった私が口を開くと、店員さんはチラリと視線を向けてくる。

一瞬、私を頭の先から爪先まで眺めた後、五条先輩に向かってニッコリと微笑んだ。

値踏みされているように感じたのは気のせいだと思いたい。



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