第29章 油断のない矢
「ロ、ロード様もこちらに来てはダメですよ……!」
訓練所とはいえ流れ弾だって当たりやすいはずだ。しかもそこには誰にでも殺意の高いチャドラがいる。このまま何も起こらないといいが、と思った矢先にチャドラの姿が一瞬で消えた。
「ロード様、伏せて下さい!」
狙いはきっとロード様だ。
私の予想通り、チャドラはロード様の後ろに回り込んで弓矢を番えていた。私は咄嗟にロード様を庇おうとしたが、間に合うか……。
ガンガンガンッ!
チャドラは矢を放った。だが、防いだのは私ではない。
「あら、惜しいわね。防がれるとは思わなかったわ」
とチャドラは、ロード様を守った人物に言葉を吐く。
「任務だからな」
そこに立つのは、ブリンクだった。
任務に忠実なアサシン部隊の一人。ロード様の危機には必ず現れる優秀なヒーローでもあった。
「ありがとう、ブリンク」
「仰せのままに」
ロード様がいつも通り感謝すると、ブリンクは片膝をついて頭を下げた。ブリンクの左右には真っ二つになった矢がいくつも散らばっている。どうやらチャドラが放った矢を斬り落としたみたいだ。
「では」
そう言ってブリンクは跳び上がって瞬く間にその姿を消した。本当に目で追うのが大変なアサシン部隊の動きだ。
「そう簡単に、頭は狙えないってことね」
そしてチャドラは、そう吐き捨てるなり踵を返した。私は待てと言いかけたが、ロード様に止められた。
「彼女は悪くありません。彼女や……ダークエルフ族たちが人間を憎むのは当然ですから」とロード様は言った。「全ては戦争が私たちを狂わせたのです。……平和は、勝ち取らないといけないかもしれませんね」
そう言いながらも決して明るくない横顔のロード様を見つめ、私は持っている盾の持ち手を強く握り締めた。
おしまい