第29章 油断のない矢
ロード様もすっかり元気になった数日後、私たちは訓練所へ視察に行った。
まだ病み上がりだからと心配していたのもあったのだが、ロード様はいつも通り背筋を伸ばし、テンポよく歩き出すものだから私が追い掛ける形となったくらいだ。元気なロード様が何よりの心の安寧だ。
訓練所の視察は、いつも私が報告するだけでも構わないのだが、時折こうしてロード様がお見えになると兵士たちの士気が断然上がるのだ。だからこうして、時々視察に来てもらっているが、武器が間近にある場所だけあって、油断ならないところでもあった。
「あ、チャドラだわ」
とロード様が指差した先には、確かにチャドラがいた。人の多い訓練所にわざわざ来るなんて珍しいな、と思ったのも束の間、チャドラは上空に素早く弓矢を放ったのだ。
私はすぐに飛び出し、盾を身構えて降ってくる矢を防ぎ、残りの矢は剣で斬り伏せてその場にいた兵士たちを守った。ありがとうございます、アルフレッド様、と兵士たちは口々に感謝を述べる。見ただけで分かった。彼らはまだ兵士になったばかりのようだ。
「味方の兵士を傷つけようとするな、チャドラ」
毅然とした態度で私はチャドラを窘める。ダークエルフ族特有の鋭い目が私を睨みつけた。
「私にとって、敵も味方も全員復讐相手に変わらないわ。もう少し遅かったら、貴様の頭もぶち抜けたのに」
とチャドラが冷ややかに言う。反省する気はないようだ。
よりによってロード様が視察に来た時に騒ぎを起こすなんて、と私が振り向くと、ロード様は倒れている兵士たちに分け隔てなく声を掛けていてぎょっとした。ロード様は見ていなかったのだろうか。チャドラの残酷さを。