第31章 〇〇しないと出られない部屋
「そうとは限らないわ。実は、お互い戦って勝った者しか出られない話もあったし」とロード様は考え込む。「でもベアトリクスのことだから、きっともっと……」
「分かりました、こういうことですね」
私は剣を取り出した。私はロード様には絶対攻撃を仕掛けられない立場だ。だから、この行動に迷いはなかった。
「待って、アルフレッド……!」
ロード様はそう言うだろうと思ったが、私はすでに剣を自分の手の甲から突き刺していた。私は声を上げた。
「ベアトリクス、これで充分か! 私は絶対、ロード様を傷つけないぞ!」
それでもすぐには出てこないだろうかと思ったが、ベアトリクスはあっさりと姿を現した。
「待て待て、何してる! そんなことをやらせたかったんじゃないぞ!」ベアトリクスは慌てていた。「扉は開けて置いたから早く出ろ! フェリシアを呼ぶんだ、早く手の傷を治してもらえ!」
私は、ベアトリクスのその慌てぶりに拍子抜けしていた。この程度大したことはなかったが、ベアトリクスは私より大慌てだ。しかもロード様なんて、
「今すぐ呼んでくるわ! 待っててね、アルフレッド!」
自ら部屋を飛び出してフェリシアを呼びに行った程だ。私は訳が分からなくてベアトリクスへ目を向けた。ベアトリクスは俯いていた。
「ごめんよ、アルフレッド。こんなことになるとは思わなかったんだ」とベアトリクスは言う。「本当はどっちからかハグをしたら出られる部屋だったんだ。ごめんなさい、こんな優しい悪魔族なんてだらしないよな。今度はもっとちゃんとしたイタズラを考えるよ……」
「そうだったのか……いや、ベアトリクスはそのままでいいんだ」私は自分の早とちりに反省しながら、ベアトリクスの肩に手を置いた。「私が悪かった。すまない、ベアトリクス」
「え……」
「フェリシア、こっちよ!」
「分かった!」
間もなく、フェリシアを連れてきたロード様がやって来て、私の手の怪我は跡もなく完治した。ロード様が治める領地は、今日も平和だったのだ。私は心から、その穏やかさを愛そうと誓った。
おしまい