第28章 ロード様が寝込んでしまった?!5
トントン、と控えめにノックされ、私が代わりに扉を開けると、そこにはジョアンとイカロスがいた。珍しい。この二人が一緒とは。
「ロード様が寝込んでると聞いて、お見舞いに来たの。入ってもいいかな?」
「ああ、ロード様も喜ぶだろう」
「失礼しまーす」
ジョアンは騎士になる前からしっかりと礼儀を教え込んだから、作法も丁寧だ。もっとも、彼女は礼儀や作法より体を動かす方が好きだから、細かいことはぎこちないが、今までの見舞い客と比べたらかなりマシだ。
一方のイカロスは、部屋に一歩も入ってこないどころか一言も話さない。まさかタトラーみたいに何かを騙し取ろうという考えはないだろうが、私は声を掛けた。
「どうした、イカロス。見舞いに来たんじゃないのか?」
「俺は……」
とうとう口を開いたイカロス。だが言葉が続かない。不審に思いながらも私はイカロスの言葉を待ったが……。
「これやる」
「え」
「じゃあな」
イカロスは私に押しつけるように何かを渡すと、勢いよく部屋から離れて行った。イカロスの言動に私は理解出来なかったが、渡されたものを見て少しは気持ちが分かった。
花だったのだ。
名前も知らない花だったが、橙色の花びらが何枚もついている花は、どこかロード様を思わせた。イカロスは見舞いに花を持って来てくれたのか。
「ロード様、イカロスからです」
私は花を持ってロード様の元へ届けた。まぁ素敵ねとロード様は嬉しそうだった。
「さっき、イカロスさんに相談されて」とジョアンが話し出す。「女性がもらって嬉しいものは何かって聞かれて。だから、丁度庭師さんが剪定していたから、その花をイカロスさんに勧めたんです」
なるほど。不器用なイカロスらしいな、と私は思ったが、この話にはまだ続きがあるみたいだ。