第22章 お見合い話
「結婚は、したいわ。もし私に子どもがいたら、いっぱい遊んであげたいもの」
ロード様は子ども好きだ。
「というと、子どもは欲しいということですか?」
「ええ、そうね」
ロード様からの言葉はそれだけだった。私は畏れ多くもロード様の顔を一瞥した。どこか遠くを見つめるようなロード様の横顔がそこにあった。
「共に暮らす人を選びあぐねている、ということでしょうか?」
私がそう訊ねると、そうかも、と小さく答えてロード様はいつもの椅子に腰掛ける。私は目を合わせてはいけない気がして俯くように頭を下げた。
「私、忘れられない人がいるの」
ドキリとした。ロード様からは一つも色恋の話など聞いたことはない。彼女が幼い頃から守護騎士として近くにはいたというのに、私気づけなかったというのか。
「……お父様のことよ」
ロード様の言葉に、どこか安堵した。そうか。その通りである。彼女は偉大なる自分の父をずっと尊敬している。それはこれからだって、変わらないのだろう。
「ロード様の父上は偉大なお方でした。彼を越える人は、いないかもしれませんね」
否、越える人を私は認めない。私は、彼が彼だったから仕えていたのだ。それは、今のロード様にも変わらない私の意志だ。
「そうね。……でも、一人近い人はいるのよ?」
「え」
ロード様の思わぬ発言に私は顔を上げる。ロード様はいつものお茶目な、優しい顔で私に微笑んだ。
「それは、どこの方で……?」
ロード様がいつまでも答えないから私が訊ねると、ロード様はクスクスと笑って、秘密と言うだけだった。だが、ロード様がそこまで想う人ならば、いい人なのだろう。私は彼女が結婚しても、守護騎士でいようと思った。