• テキストサイズ

ロード様とヒーローたちの休息[ローモバ]

第19章 永遠の夢


「……夢を見たの」ぽつりぽつりとロード様は話し始めた。「怖い夢よ。氷に閉じ込められている夢なの」
「氷に……」
「ええ」
 言いづらそうに言葉を口にするロード様。私は静かに次の言葉を待った。
「……閉じ込められていたのはサラムだったの」
「サラムが?」
 なぜサラムが、と思ったが、聞いても困惑してしまうだけだろう。夢の中の話だ。ロード様ですら理解し難い世界で、途端に愛している誰かが苦しめられている瞬間を目の当たりにしてしまったら、例え夢の中でも神経がすり減る。
「ええ」今回のロード様は言葉が少なかった。「彼は、死の騎士なのでしょう? なんらかの方法で生死を繰り返す彼から、そういうイメージがついたのかもしれないわ……」
 ずっと沈んだ声のロード様に、大丈夫ですよと声を掛けるべきなのだろうか。私が悩んでいる間に、ロード様はさらに話し続けた。
「私は氷に閉じ込められる彼を助けようとしたの。でも、サラムがそれを拒むようにどんどんと氷が生えてきて、私は助けることが出来なかった……」
「それって……」
 言いかけて私は口を噤む。私は何を言おうとしたのか。傷つけるだけだと分かっていたから途中で言葉を切ったが、察しのいいロード様には私が何を言おうとしたのかお見通しだったみたいだ。
「今のサラムみたいよね」
 私は、なんて返したらいいか分からず口を閉ざしてしまった。物理的に戦いからロード様を守ることは出来るというのに、精神的な救いは私には出来ないというのだろうか。サラム自身はそんなこと気にしないだろうし大丈夫だろうが、今ロード様に言うべき言葉ではない。
「これを終わったら、サラムに会いに行かなくっちゃね」
 どういう心の葛藤があったのか、疲れた顔にうっすらと笑顔が戻ってきたロード様の表情に、私は安堵した。なら私は、彼女のそばにいればいいだけだ。
「その時は、お供します」
「頼りにしてるわ」
 ロード様はようやく、スムーズに事務作業へ移っていった。ロード様にはロード様にしか出来ないことがある。ならば私は、私の出来ることを精一杯やるのみだ。
 その時、部屋の外が何やら騒がしくなった。次には兵士らしき声が飛び込む。
「サラム様、芸術品を壊すのはおやめ下さい!」
 どうやら言葉は、いらないようだ。

 おしまい
/ 66ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp