第18章 図書館で深めるもの
「タリア、その本は……」
とロード様が目で指すのはタリアが常に持ち歩いている魔導書。タリアの魔法はその魔導書を通して発揮されている。
「これは、私が前に話したあのお城で見つけた本です」
今はもうない城なんですが、とタリアはロード様に本を開いて見せた。といっても、そこに書かれている文字は古代の時代に使われていたドラゴン文字で、ロード様には読めないものだろう。
「……この文体、どこかで見たことあるわ」
思わぬ言葉にワシは思わずドキリとしてしまう。
「ロード様、この文字が読めるんですか?」
「少しだけ……お父様から昔教わったことがあるわ」ロード様は食い入るように本を覗き込んだ。「む……そ……し……うーん、途切れ途切れでしか読めないわ。もう少しちゃんと勉強したらよかった」
と残念がるロード様にワシはどこか安堵感を覚えた。読めたら困るのだ。その本はワシがかつて書いたものなのだから。
「ロード様……」
「あ、ごめんなさい、つい夢中になっちゃったわ」ロード様は背筋を伸ばした。「私は執務室に戻るわね。またね、ルドルフ、タリア」
「またの、ロード様」
「はい、また!」
立ち去って行くロード様の背中を見送りながら、ワシは小さく息を吐いた。ロード様は優しいだけでなく、かなり高い教養もある。ワシは彼女を、少々侮っていたのかもしれない。
「ルドルフさん?」
「あ、ああ、なんでもないぞ。して、なんの用だったかな、タリアよ」
「ここの文面だけ読めなくて……」
ワシはタリアに魔導書の解き方を教えながら、先程作り出した本を消滅させて置いた。ロード様にはまだ秘密じゃ。ワシの書いた本が、巡り巡ってタリアの手元にあるということは──。
おしまい