第18章 図書館で深めるもの
「一冊だけなら、ワシが作ったものがあるぞ。今はどこにあるのか皆目検討もつかないが」
「その本には何が書いていたの?」
「他愛もない昔話……童話を書いていたのじゃ」
「童話を?」
「そう、今は忘れ去られし太古の童話をの」
「聞いてみたいわ」
「ならば書いてみせようかの」
そう言ってワシは、真っ白なページに文字と挿し絵を挟み込んだ。ロード様からしたら、ローモバ文字にした方が読みやすいだろうか。ワシの魔法で描かれた挿し絵と文字が僅かに輝いた。
「むかしむかしあるところに、赤い少女がいました……」
童話のよくある始まりの出だしから、ワシは赤い少女の話を読み聞かせた。ロード様は本に夢中になりながらワシの話をよく聞いてくれた。ワシの話がロード様にどれだけ響くのだろうか。ワシは彼女の行く末を見守ることになるのだろうが、今は知りたくないと願う。
「ルドルフさん」
丁度、ワシが話し終えた頃に呼び掛けられた声。そこにはタリアが本を抱えて立っていた。
「おお、タリアか。何か用かな」
「こんにちは、タリア」
「わ、ロ、ロード様、いらっしゃったのですね!」
ワシの言葉に続いてロード様が挨拶をなさると、タリアは慌てたように頭を下げた。
「私の用はあとでいいので、失礼しました……!」
そう言ってタリアが立ち去ろうとしたのでワシは止めようとしたのだが、それより早くロード様が止めて下さった。
「いいのよ、丁度お話が終わったところなの」とロード様は席を立った。「いい休憩になったわ。ありがとう、ルドルフ」
「いえいえ、ワシも話していて楽しかったぞ」
そうしてロード様がタリアとすれ違おうとした時、何かに気づいて足を止めた。