第18章 図書館で深めるもの
ロード様の城は、もう何千年も長く続く歴史標本のようなものだ。
ワシはそこの図書室でいつも本を整理したり並び替えたりしているのだが、今日は珍しくロード様が直々にやって来たようじゃ。
「こんにちは、ルドルフさん」
「おお、ロード様、わざわざこちらにいらすとは珍しいのう」
ずり落ちる帽子の隙間から、髪の長い美しい女性を目視する。やはりロード様は歴代一美しい女性領地主だ。ワシはいつも美しいだの綺麗だのと口説いておるんじゃが、どうやらロード様は自覚がないようで謙遜するばかりじゃ。
もっとも、自分の美しさに自覚がある自惚れが領地主だったら、長くその座にいなかっただろうが。
「今日は何かお探しかな」
ワシは本の整理をやめてロード様の前に出る。ロード様はワシよりは背が高いから……といってもワシが小さいからなのだが……見上げる形となった。
「今日は貴方とお話に来たのよ」
「おお、それはそれは」
ロード様は人の話を聞くことを好む。そうやって政務の合間にワシらのいる場所にやって来ては色んな話を聞いて休息を取っているのだと思われた。そうやって信頼関係を築くのだから、一石二鳥なのかもしれんの。
「では、ワシの武勇伝でも話そうかのう」ワシは図書室のテーブルへロード様を案内した。「さ、お席へどうぞ」
トンッと杖を振ると、たちまち椅子は意思を持ったように動き出してロード様に座りやすいようにする。ロード様はワシのそんな魔法を見る度に、目を大きく開いて感動してくれるから見ていて飽きない。
「ルドルフの魔法はいつ見ても面白いわ」
「有り難きお言葉」
ロード様に恭しく頭を下げるワシ。頭を下げることは別に嫌いではない。むしろこのロード様になら、一生仕えてもいいと思っている。
「では、今日はなんの話をしますかな」
長く生き過ぎたワシの語る武勇伝は、あちこちで伝説となる程だ。何から話そう、と思案していると、ロード様がこう言った。
「ルドルフにまつわるお話はたくさんあるでしょう? ルドルフ自身が書いたお話はあるのかしら?」
「ああ、それなら」
ワシは一冊の本を魔法で取り出した。といってもこの本には何も書いてはいない。今さっきワシが作り出した新しい本だ。