第16章 隠れんぼ
今日のロード様は、東の庭園で戯れを始めている。
東の庭園は、ジョアンがよくいる薔薇の庭園とは丁度反対側にある城の敷地内だ。前の領地主から引き継いだ形をほぼ変えず、庭師たちが低木を整えて迷宮のような装飾を施しているが、ロード様にとっては悩みの多い仕事の合間に来る遊び場となっていた。
そして私は、城内へと続く階段に腰を掛け、しばしの休憩を取っている。時折聞こえる楽しそうなロード様の笑い声が、私の癒しと言われたらそうだと思う。
「あら、こんなところに座っているなんて珍しいわね」
と声を掛けてきたのはサラマンダーだ。
「ここに来る時は、私は守護騎士である必要はないからな」
と私は言い、庭園へと視線を戻すと、それは興味深いとサラマンダーも横に並んで階段に腰掛けた。
「厨房の仕事はいいのか?」
彼女はどんな火でも自由自在の「烈火の魔術師」だ。それはこの領地にとって重要な戦力の一人でもあり、普段は厨房の火を担当していたりもしていた。彼女からここに来てからというものの、火の扱いで困ったことがなくなった程だ。
「ええ、もちろん。火の扱いなんて慣れたものよ」
と得意げに笑むサラマンダーの顔には、どこか裏があるようにも見えた。私の考え過ぎだろうか。
「あ、アルフレッドにサラマンダー!」庭園の低木から、ロード様が出てきた。「ちょっと後ろに隠れさせてちょうだい!」
「え、ロード様……?!」
「あらあら」
私が答えに困っている内に、ロード様は私たちの後ろへと身を縮こませた。といっても私とサラマンダーの後ろに隠れただけなのだが……。
どういうことなのかと私が横を見やっても、仕方ないわねと呟くサラマンダーの顔しかない。突然のことで戸惑う私とは真逆で、サラマンダーはどんなロード様に対しても冷静だ。