第15章 もふもふは正義
「稽古をしていたとは、偉いわね」
一方のロード様は、私の心境なんて知らないはずで、ジョアンにそう声を掛けた。するとジョアンはすぐに背筋を伸ばして笑顔で応じた。
「ありがとうございます! 私、もっと強くなりますね!」
そういう一面は、本当によく出来た娘だなと思う。よくこっそりと森に出掛けた娘の行動は寛容にはなれないが。彼女が本当に実力があって「薔薇の騎士」になったことは、認めなくてはならない、と私は改めて思う。
「疲れているなら、スパーキーを一緒にモフらない? とても気持ちいいのよ」
「え、あ、スパーキー! そんなところにいたの?!」
そこでようやく、ジョアンはロード様の膝の上にいるスパーキーに気づいたようだ。スパーキーはラピン族の一人で、人間から見たら膝下くらいしかないくらい小さな生き物だ。だが侮ると、彼の逞しい力に吹き飛ばされるだろうから、頼もしい仲間の一人ではある。
「疲れたからロード様に癒してもらおうと思ってたけど……スパーキーにも癒してもらおっと!」
「僕、癒しになってるのか?」
「なってるなってる! ね、ロード様!」
「ええ、そうね」
そんなジョアンとスパーキーとロード様の会話を片耳に……って今ジョアン、なんて言った?
「ジョアン、ロード様はジョアンの癒し道具ではないんだぞ」
と私が言っても、ジョアンはパチクリと瞬きをするだけだ。
「道具なんて思ってないわ。でも、ロード様とお話しているとなんだか癒されて……」
「そう思ってくれるなら嬉しいわ」
ジョアンの失礼さをなんとも思っていなさそうなロード様を見て、まぁいいかと私は思えるようになった。
「なぁ、まだ毛ずくろいは終わらないのか?」
スパーキーはしばらく、ロード様に捕まっている運命だろう。
おしまい