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ロード様とヒーローたちの休息[rm]

第14章 影役者


「ロード様、大変です!」
 ある日の昼近く。血相を変えて王室にやって来たのは、一人の兵士だった。
「どうした」
 私がロード様の代わりに受け答えすると、兵士は息を切らしながらこう言った。
「我らのほとんどの食糧を養っている大農夫の娘が攫われました……」
 誘拐事件。それは度々起こることだった。どこの国もどこの領地も戦争が絶えないこの時代、アテナバリアーを張っているこの領地でさえその争いの渦中に巻き込まれる。戦争が仕掛けられないなら別の犯罪で混乱をもたらそうと。その中の一つに、豊かな領地の生産物をあの手この手で奪おうとする輩が後を絶たないのである。
「あの娘さんが……分かったわ」
 とロード様が言い、兵士を下がらせる。これから何かしらの指示が下るのだろう。私は、報告に来た兵士が完全に立ち去ったのを見送ってロード様へ目を向けた。
「シュラウド、いるのでしょう?」
 彼を呼ぶのか。
 ロード様が誰もいないはずの正面を見ながら呼び掛けると、すぐにその気配は現れた。
「大将の首、みぃつけた」
 ゾッと悪寒が走るような声と共に、あっという間にロード様の背後には、シュラウドの姿があった。一瞬の狂いもなくロード様の首に刃物が向けられている。
「シュラウド……!」
「いいのよ、アルフレッド」
 私はシュラウドを窘めようとしたが、ロード様に止められた。私は口を閉ざし、ロード様の次の言葉を待った。
「さっきの話、聞いていたでしょう? 農夫さんの娘さんを助け出してくれるかしら?」
「農夫がいるなら、娘なぞ必要ないだろう」
 ロード様がシュラウドの刃物に臆することなく指示を出す。シュラウドはロード様から離れたが、態度は反抗的だ。
「娘さんが農夫になった時、未来の子どもたちに食糧を届けることが出来なくなるかもしれないわ」
「そんなのはワレには関係ない」
 と言いながらもシュラウドはすでに王室の出入口に立っていた。何度見ても、彼らアサシン部隊の動きは私には目で追えない。
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