第13章 薔薇の庭園
「いつもここで鍛錬を?」
椅子に腰掛けると、早速ロード様が聞いてきた。私とお話したいみたいだ。
「いつもは、訓練所にいるんですけど。ここはロード様から頂いた大切な場所なので、時々ここで鍛錬をしています」
「そう、偉いわね」
「有り難きお言葉」
そんな会話もほとほとに、私はロード様をじっと観察する。薔薇がガゼボの屋根から垂れ下がっていて、それがロード様を際立たせる美しい背景となって絵画のようにも見えた。今度絵師さんでも呼んでこの瞬間をいつまでも保存したいと思った。ロード様は、自分のことにはあまりお金をかけないから、きっと断るんだろな。
「お茶をお持ちしました」
頼んでもいなかったのだけれども、近くにいた庭師伝いで侍女がお茶を持ってきてくれたみたいだ。領地内で取れたハーブティーなんだそうだ。私はロード様と一緒に、ハーブティーを口にする。
「うん、美味しいわね。カモミールかしら」
とロード様が言い、その通りですという侍女からの回答が返ってくる。ロード様は美しいだけでなく、物知りだから本当に尊敬出来る人だ。
「すごいですね。私なんて、まだまだです」
そう言うと、ロード様はクスリと笑った。
「貴方は立派な騎士ですよ。私はたまたま、領地の主になっただけです」ロード様は謙遜なさった。「それより、森のピンチを救った貴方のお話を聞きたいですね」
「え、また同じ話になっちゃいますけど、いいんですか?」
私が森のピンチを救った話は、ロード様に何度も話していることだ。そろそろ飽きるんじゃないかな、とも思ったけれど。
「貴方のお話が聞きたいんです」
何度でもね、と私にウインクをしたロード様が、ちょっと可愛らしくも見えた。
「では、お話しますね」
私は嬉しくなって、森にやって来たお話をロード様にもう一度話して差し上げた。私が薔薇の騎士になった話を、ロード様はずっと気に入ってくれているみたいだ。
おしまい