第10章 ドロン捕まる、再び
「もう少しで終わるからね〜」
朝。私が王室に向かうと、またロード様に捕まっているドロンの姿があって少し驚いた。今度はヒゲではなく髪の毛だ。ロード様はドロンの髪にクシを通し、もうずっと髪の毛を整えているのだろう。
「よう、アルフレッド。元気か?」
ロード様にされるがままのドロンは、諦めなのか開き直っているのか、特段変わった様子なく私に挨拶をする。私は返事もそこそこに、早速ロード様へ声を掛けた。
「今日の報告をしたいのですが……」
「そこで読み上げてくれるかしら?」
もはや、この会話が日常茶飯事になりつつあった。ドロンも、髪の毛ならまだ耐えられるのか、助けを求めている様子はない。というか、彼には妻がいるはずだが、彼女は嫉妬しないのだろうか。
「ロード様、ちょっと報告したいことがあるんだけどねぇ」
噂をすればなんとやら。王室に威勢のいい声が割り込んで私が振り向くと、そこにはヒルダがやって来ていた。
「あら、おはよう、ヒルダ。貴方は確か、同盟国の視察に行っていたのよね」
しかしロード様は、ドロンの髪を梳く手を止めずに悠長だ。果たしてヒルダの様子は……と私が密かに伺っても、彼女は淡々と視察の話を続けるだけだった。
「そういう訳で、こっちの国に要注意ギルドたちが来るかもしれないわ」
とヒルダが話を終えた頃には、ロード様はドロンの髪を整え終えた。
「ありがとう、ヒルダ。警戒するように司令を出しとくわ」とロード様は言う。「ドロンの髪も綺麗になったわ。いつも兜を被っているからって、整えなきゃダメよ、ドロン」
「う、分かってるって……」
戸惑いながら答えるドロン。これは恐らく、やらない方の返事だろう。
「少しはよくなったじゃない、ドロン」そこにヒルダがドロンを見て言った。「あんた、本当はロード様にやってもらいたくてぐしゃぐしゃなんじゃないかしら」
「それは言うなよ、ヒルダ」
ん……?
私が彼らの会話についていけないでいると、ロード様がクスクスと笑った。
「あら、そうだったの? ドロン」
「あー、えっと……そこは、内密にしてくれると」
なんだかんだロード様に嘘はつかないドロンだ。言い淀む言葉と泳ぐ目が事実を語っていた。
「じゃあ今度は、あたしもやってもらおうかしら」
「あら、いいの?」
「ええ、もちろん」
「嬉しいわ♪ おいで、ヒルダ♪」