第8章 慈愛の主
「ほら、ちゃんと歩きなさいってば!」
ある日の昼間。私がロード様側近の護衛中、黄色い声が王室に入ってきた。
「言われなくても分かってる!」
この怒りに満ち溢れた声の主は……と考えるより早く、ツタでグルグル巻きにされたサラムが王室へ倒れ込んできて周りの兵士たちは慌てて囲んだ。
「大丈夫、サラムだ」
彼の放つオーラは、時に味方にも敵意や恐怖を与える程だった。兵士たちは直感的にサラムを敵と認識してしまったのだろうが、私が声を掛けるとすぐに定位置へと戻った。
「あらあら、今度は何をしたのかしら?」
一方のロード様は、彼の威圧感をものともせずに王座から下りてサラムに近寄る。サラムはツタに縛られてそこにうつ伏せで倒れたまま、なおも暴れた。
「コイツ、いきなり俺様を妙な魔法で捕まえやがったんだ! 解放させろ! 貴様はロードなんだろ!!」
さらにはロード様にそんな言葉を投げつけて、私は言い返そうと息を吸ったが止められた。
「いいのよ、アルフレッド」それからロード様は膝をついてサラムの頬に手を当てた。「優しいフェリシアが貴方をこのようにしたのには訳があるのよ。何があったか教えてくれるかしら」
「貴様に話すことはない!」
「うっ……」
なんてことか、サラムはロード様の手に頭突きで振り払ったのだ。
「サラム、お前……!」
「大丈夫」それでもロード様はお優しい人だった。「貴方の苦しみと比べたら、私の痛みくらい平気です」
「分かってるなら早く解放しろ!」
「それは、フェリシアからお話を聞いてからね?」
寛大なロード様に対してサラムはなおも態度を改めなかったが、私はあまり気にしないようにしてフェリシアから事情を聞くことにした。フェリシアの言い分はこうだ。