第8章 慈愛の主
「いきなり魔物の森に行くっていうから、アタシもついて行ったんだ」とフェリシアは話し続ける。「そしたらサラム、どんどん魔物の群れに突っ込んじゃって! アタシがいなかったら絶対誰にも見つからないところで倒れていたんだから!」
「そうだったのですか? サラム」
フェリシアの話を聞き終わったロード様は、サラムに問い掛けた。だがサラムは相変わらずだ。
「別に助けろとは言っていない。ソイツが勝手に回復魔法を掛けただけだ」
「もう! 少しくらいは感謝しなさいよね!」
サラムとフェリシアの仲の悪さはロード様も知っているはずだ。だが、フェリシアが妖精族でありながら他族のことも気にかける世話好きな性格もあり、無謀なことをしがちなサラムによくついて行くのだろう。
「大丈夫よ、フェリシア。あとは私が話しておくわ」
「でも、ロード様……」
「フェリシア、サラムのツタを解いてあげて」
「……分かったわ」
ロード様に逆らわないフェリシアは、言われた通りサラムを縛っている魔法のツタを解いた。サラムはようやく、自由の身となったのだが。
「ふん、さっさと解放すれば良かったものの」
サラムはロード様に感謝の一つも言わずに立ち上がり、王室を出て行こうとした。前まではロード様の額に容赦なく頭突きしていたから、少しは進歩したのかもしれないが……。
「もう体は痛くないのかしら?」
立ち去る間際、ロード様がサラムに声を掛けた。サラムがこちらの言葉を聞くはずないと思ったが、彼は意外にも足を止めた。
「俺様をなんだと思ってる。舐めるなよ」
サラムが返した言葉はやはり毒気だったが、恐らくロード様はそんなことを気にしてはいない。そんなことを気にしていたら、自分に忠誠を誓っていないサラムに部屋や食事を与えたりしていないのだ。
「あーあ、行っちゃった」
王室を出て行ったサラムの背中を見送りながら、フェリシアは呟いた。そんなフェリシアに、ロード様は微笑んだ。
「いいのです。私が勝手に、彼を気に入っているだけですから」それからロード様は私の方を振り向いた。「今度は、貴方もサラムについて行ってあげて欲しいわ。彼には仲間が必要よ」
「分かりました」
と私に言うロード様。ロード様のおっしゃる通りなのかもしれない。
ロード様の慈愛に包まれた私たちは、今日も平和だ。
おしまい