第6章 アテナの祝福
「……そうですね」
ロード様は目を伏せた。
私は、ロード様の父のことを思った。彼女の父も、本当に偉大な領地の主で、私は彼に仕える守護騎士であった。だが、元々体が弱かった妻……ロード様の母が病で倒れた日、彼は付きっきりで看病し続け、アテナ像への祈りの儀式をしなかったのである。
結果、平和だったこの領地にたった一度だけ戦争を仕掛けられ、私たちは逃げおおせたものの、彼は戦火に巻き込まれて亡くなってしまった。私に、娘を頼む、とだけ言い残して。
「私は、貴方とこうして歩く日々が、幸せだと思います」
ロード様が乗る馬の手網を握りながら、今確かに分かることだけ私は言った。不安な色をしていたロード様の目と、ぱちりと合った。
「そうね、私もよ」
これからどうなるのか分からない。だが、頼まれた命を、大切だと思う全てを、私は守りたいと思った。なぜなら私は、守護騎士なのだから。
「着いたわね」
そうこうしている内に、アテナ像前までやって来た。普段動きやすい服装のロード様も、この儀式の時は聖服を着ていて、馬から降りるとジャラリと黄金の装飾が揺れた。
「それじゃあ、手伝ってくれるかしら」
「え、何を……」
実は私は、この儀式に同行するのが初めてだ。私に背中を向けながらこちらを振り向くロード様に何を手伝ったらいいか分からなくて私は言い淀む。
「決まってるじゃない。今からこの聖服を脱ぐの」
「ぬ……えっ、ここでですか?!」
「そうよ。一人で脱ぐのは大変なの」
「そ、それはなぜ……」
「アテナ像の前で余計な服やらアクセサリーやら付けて祈りなんて出来ないわ。さ、早く手伝って」
知らなかった。だからいつも、女性のヒーローばかり同行していたのか。
「アルフレッド?」
「は、はい、ただちに!」
私は出来るだけロード様の裸体を見ないように、慎重に服を脱がせるように努力した。