第6章 アテナの祝福
「では、行ってきますね」
一ヶ月に一度、ロード様は儀式を行うために城をあとにすることがある。その護衛として、今日は私が選ばれた。
普段は、ジョアンとかフェリシアとかいつもは女性ヒーローが選ばれていたが、ジョアンは駐屯地の視察に行ったし、フェリシアは森へ帰郷中だ。ならば他の女性ヒーローを、と思っていたところ、なぜか私が指名された。
儀式は領地の端の方にある場所で行う。そこにはアテナ像が置かれていた。そこへ向かう途中、私はロード様に訊いてみたのだ。
「あの、私が選ばれた理由をお伺いしても?」
「貴方と二人きりで話したかったのよ」
領地一優秀な白馬に跨りながら、ロード様はそう言って微笑んだ。笑顔が美しい人だ。私より少し若いはずだが、本当によく領地の主をやってくれている。
「そうですか。有り難きお言葉です」
と私は返したが、自分はそこまで話が上手な訳ではない。話上手なだけならタトラーを連れて行けばいいだろうし、サラマンダーだって話すと楽しい女性だし、わざわざ私である必要はない気がしていた。
「私は、思うのです、アルフレッド」ロード様は唐突に話し始めた。「私が、アテナ様への祈りをやめたら、この領地の人々は戦争で苦しむことになってしまうのだろうか、と」
そう。これから向かう儀式は、ロード様がアテナ像に向かって祈りを捧げ、領地を守るバリアーを張ってもらうためであった。同盟を結んでいる国や同じギルドに所属している別の領地は、すでに度重なる戦争で疲弊しているところもあった。その領地はどこも、アテナ像への祈りを怠ったためだと噂されていた。
「不安ですか、ロード様」
こういう時、安心して下さい、などと根拠のないことは言わない方がいいと、この前サラマンダーから聞いたことがあった。だから私は、質問を返すことにした。ロード様の横顔が、何より不安そうだったからだ。