第5章 道中
今まで、旅の途中で出会ったポケモントレーナーの中には、気のいい人間もいて、仲間の何匹かはそのポケモントレーナーのポケモンになりたそうにしていたのもマスカーニャは分かっていた。なぜなら自分たちが北のどこへ向かっているのか、みんな知っていたからだ。
「だんだん寒くなってきたわね……みんなは、この先に向かうの?」
マスカーニャたちの向かっている先を唯一知らないニャオハがそう訊ねた。皆俯いたり眠ったフリをして答えたがらない。その様子をニャオハは不思議そうに見回していた。
意を決して、マスカーニャは言った。
「俺たちは、自分のポケモントレーナーの故郷へ向かっているんだ」
手掛かりは、そこしかないから。
皆言いたくない理由は、マスカーニャは分かっていた。こうしてユメかもしれないニャオハと、同じ目線になって、同じ言葉で会話出来るようになって、今更そんな日々を手放したくなかったのだ。
つまりは。
ユメの故郷に行けば、ニャオハは何かしら記憶を取り戻してしまうのではないか。
本当は記憶探しなんかやめてニャオハのままのユメと一緒に誰も知らない森の中でのんびりと暮らしたかった。今までいい人間に出会ってもここまで誰一匹も欠けずに旅が出来たのも、ニャオハがあまりにもユメそっくりで、それ程にも大切な存在となっていたから。
だけど、何も知らないニャオハは何も悪くない訳で。
「分かったわ。頑張って北の山を越えましょう」
ニャオハはずっと、マスカーニャたちのポケモントレーナーが見つかることを心から願っていた。
それが何より苦しかった。