第16章 予感
ある露が下りた朝だった。
常夏のような大地にしては珍しい寒空の下、マスカーニャはふと何か勘づいて顔を上げた。
見慣れた景色と洞窟の暗さに、マスカーニャは一瞬、自分はまだ寝ぼけているのかと思い込む。
仲間のポケモンはまだ眠っていたし、見張りをしていたゴーストタイプのポケモンも、何か気づいている様子なくどうした? と聞くだけだ。
ちょっと外へ。マスカーニャはそう言って洞窟を出る。やはり何もないいつもの景色に、何かざわつくものを感じてマスカーニャの毛がわずかに逆立った。
ふわり、と軽い風が吹いてきたと同時に、パタパタと走る音がいくつか聞こえた。野生のポケモンだろうかとも思ったが、その足音に聞き覚えがあってマスカーニャは振り向いた。
「みんな……どこ……っ?!」
そう息を切らしながら、一人の人間がこっちに向かって走ってきていた。足元にはエネコのようなポケモンも一緒に走っている。
その一人と一匹を見た時、マスカーニャの心音は早鐘のように打ち鳴り、数秒、仲間たちに知らせるのが遅れた。
「ユメが、帰ってきた……!」
マスカーニャが叫ぶと、起きていた仲間も、まだ夢うつつだった仲間もすぐに飛び起きて洞窟からゾロゾロと出てきた。こちらに走ってくる女の子が、ようやくこちらの存在に気づいて大きく手を振った。
「みんなー! 私だよ! ユメだよー!」
このあとのことを、語るまでではないだろう。
おしまい