第13章 貴方の故郷
厳しい冬の山をようやく乗り越えると、だんだんと暖かくなっているのがマスカーニャは分かった。
そう。ユメの故郷は北の厳しい山に囲まれた平野にある小さな集落で、不思議なことにいつ来ても春のように暖かい場所だった。
本当は、トンネルを通るルートもあったのだが、あの場所は人間が多いことから、マスカーニャたちは敢えて山越えルートを選んでいたのだ。その理由は、もう語らなくてもいいだろう。
ユメの故郷にしか咲かない花と緑が見えた時、見えてきた、と仲間の誰かが言った。
人間の建物だ。
集落とはいえちらほらと人間の気配がするここは、また騒動になりそうだからと、人が作った庭や人の手が届いていない林を通り抜けてマスカーニャたちが向かった先を、ニャオハはどこなのか気づいていたと思う。
間もなく、大きな岩が見えてきた。近づくとその岩はある人間の庭に鎮座しているもので、マスカーニャたちがよく知っている場所だった。
ユメの実家である。
今日は天気もいいからとシーツを庭に干しているみたいだ。爽やかな風がシーツを揺らして、平和そのものを映しているようだ。
直後、小さなエネコが庭にやって来た。エネコが一鳴きすると、間もなくベランダの窓が開いて、丈の長いスカートを履いた女の人が出てきた。女の人はくすんだ黄色いエプロンを身につけていて、ベランダを開けるとすぐにそこにいるエネコに気がついた。