第12章 記憶と願い
「うーん……」
目が覚めると、マスカーニャは薄暗い洞窟の中にいた。見ると周りには仲間のポケモンたちがいて、ここはどこかと聞くより早く、ニャオハが飛びついてきた。
「マスカーニャ!」
「ニャオハ……」
ニャオハは泣いていたような気もする。マスカーニャはそんなニャオハを、優しく撫でて呟いた。
「ごめん……」
すると、ニャオハはマスカーニャの胸の中で何度も首を振った。
「ううん、いいの……私が、記憶を取り戻したいなんて言ったから……」ニャオハは嗚咽を飲みながら話し続けた。「私、もう記憶なんていいから……マスカーニャがいなくなるなんて考えたくないよ……っ」
ドキリとした。ずっと聞きたかった言葉なのに、素直に喜べない自分がいる。マスカーニャは自分の複雑な心境を言葉に出来ないまま、周りの仲間たちをぐるりと見回した。みんな黙ってマスカーニャを見つめ返すばかりだ。
マスカーニャは間を置いて、ニャオハを自分から離した。
「俺もだよ、ニャオハ」マスカーニャは自分の気持ちを確かめるように、ゆっくりと言葉を続ける。「だけど……ユメがいないのは、本当は寂しい」
ずっと、想い続けてきた人なんだ。ずっと、大事にしてきた人なんだ。ずっと、長い旅を一緒にしてきた人なんだ。
今更、もういなくていいなんて思えない。
あの時、ニャオハの鼻歌を聴いて気づいたんだ。
俺たちは、ユメのことが大好きだ。
だから、ユメかもしれない貴方のことを助けたい。貴方の記憶を探したい。
それは、もしニャオハがユメじゃなくても同じことだった。
「だから……ごめん……」
ニャオハがユメになってくれとは言わないから。最初で最後の希望へ。
「ついて来て、くれるかな?」
マスカーニャはそう問いながらニャオハを見つめた。
ニャオハはじっとマスカーニャを見つめ、意を決したように頷いた。
「うん、もちろん」