第10章 雪崩
「な、なんの音……っ?」
事情の知らないニャオハは慌てた様子でマスカーニャを見上げた。どうやらゆっくり喋っている場合ではないようだ。
「雪崩が起こるんだ、早く逃げよう、ニャオハ!」
「えっ、どこに……」
「とにかく今は肩に乗って!」
「うん!」
マスカーニャは説明を手短に済ませてニャオハを肩に乗せる。マスカーニャはすぐに走り出して避難出来そうな洞窟を探したが、本能的に勘づいてはいた。洞窟を探している場合ではない。雪崩はすぐそばまで迫っていたのだ。
「マスカーニャ、雪が……!」
肩でそう叫ぶニャオハの声がした。もう無理だ。自分の足では雪崩から逃げ切れないだろう。せめてニャオハだけは無事で……。
マスカーニャはとっさの判断でニャオハを庇うように胸に抱いた。ニャオハの顔を見ている余裕はなかった。
ドッと背中から鈍い衝撃。
しかしそれは確実に、まるで糸に絡まって動きづらくなったみたいに、マスカーニャたちを襲った。
視界はあっという間に真っ暗になった。胸にいるニャオハの体温だけが安心する。まだ生きている。生きている内に、何か技でも繰り出せたら、仲間がニャオハを見つけてくれるかも……。
マスカーニャは力を振り絞って片手から何か技を出した。何が出来たのか、または何も出来なかったのか、マスカーニャは意識出来なかった。締めつけるようにマスカーニャを捉えた雪は、静かにその生命力を奪おうとしていたからだ。
「マス、カーニャ……」
途切れ途切れのニャオハの声が聞こえ、マスカーニャは手放そうとした意識をなんとか自らに引き戻す。ここで諦める訳にはいかない。誰か……誰かニャオハを……ユメを助けて……!