第8章 困惑
ニャオハはしばらく答えなかった。大きな目がマスカーニャを見つめて、ますます罪悪感は大きくなるばかりだった。
「ユメは、俺たちが探しているポケモントレーナーの名前」マスカーニャは話し続けた。「俺たちは、ユメの故郷へ向かっているんだ」
「それが……私の記憶探しの手掛かりになるかもってこと……?」
ようやく喋ったニャオハの声は、震えていた。マスカーニャの言葉に複雑な表情を見せている。
そして、ニャオハは察しがいいみたいだ。
「私」ニャオハはゆっくりと話す。「人間の頃の記憶は思い出せないけど、記憶を取り戻したいと思ってる」
それからニャオハは目を逸らして、さらに言葉を続けた。
「だけどマスカーニャたちは、行きたくなかった?」
核心を突かれた。その通りだ、なんてマスカーニャも、仲間のポケモンたちも誰一匹も答えなかった。だけど、答えは沈黙が語った。
「私……」
「でも俺は、ニャオハのことが……」
「ごめん、一人にして欲しいの」
ニャオハはそれを最後に、洞窟を飛び出した。見ると外の吹雪は止んですっかり晴れている。少しは一匹に……いいや、一人にした方がいいかもしれない。
マスカーニャは俯いてその場に座り込んだ。こんなに体が重いのは、きっと雪山を登って疲れているからじゃない。マスカーニャはこの気持ちを冷たい岩の床に沈めたい思いだった。
近くにいたポケモンが、ニャオハを一匹にして良かったのかと聞いてきた。良くはない。良くはないが、自分にはニャオハを追う資格はないと思ったから。
しかし、予知能力のあるエスパータイプのポケモンが、急に立ち上がって声をあげたのだ。
「これから雪崩が起きるわ。ニャオハが危ないかも……!」
マスカーニャと仲間のポケモンたちも立ち上がった。ニャオハを探さなくては。マスカーニャたちは、その一心だった。