第13章 黒猫、揺蕩う
1口分スプーンで掬い数度息を吹き掛け冷ましてから治の口元まで差し出すとパクリと食い付いてきた。元々食べる事が好きだからか、幸せそうにもごもごと噛み締めてるのが微笑ましい。なんかあれやな、親になった気分。これが母性か…。
「あー…なるほど。人たらし相手だと侑も治も苦労しそう。男との距離感バグってるでしょ。」
「せやろ、この無警戒で懐っこい犬みたいなとこ好きやけど嫌いやねん。特に俺らは全く意識されてへんからな。」
「おいサムだけ狡いぞ!ナポリタンは俺のやるわ!!」
「お、おん。こんな気合い入ったナポリタン貰うの初めてや。」
ずいっ、とわざわざ身を乗り出してまで侑からナポリタンが巻かれたフォークが差し出される。…うん、こっちも美味い。なんかむっちゃ懐かしい味がするわ。
「逆に侑達は彼女いらんの?って言ったら私がシバかれる?」
「お前が俺の彼女んなれ言うとるやろ。」
「結局東京帰るからなんも出来ひんし今と変わらんくない?それなら近い女の子とちゅーなりなんなり出来る方が良くない?」
「良くないわ、俺はお前か好きやねん。……けどせめて、せめて毎日電話でもええから好きって言われたい!!」
「侑が思ったよりピュアでびっくりした。治は?」
「侑と同じやな。彼女にするなら今もがええなと思っとるよ。」
「…サラッと言われると流石にちょっと照れるなぁ。」
「絶対顔だけじゃ無いじゃん。」
「角名さっきからうっさいわ!何処が好きかなんて教えたらへんで。の可愛ええトコは俺だけ知ってればえぇねん。」
「……へぇ?」
侑とスナリンの間でバチバチと火花が散ってる様に見えた気がしたけど、見なかった事にしよう。
ドリアを食べ終わり、パンケーキが運ばれて来るのを待つ間の事だった。先に運ばれて来たカフェラテを時折飲みながら3人と雑談を続けていると、ソファに置いていた手に何かがちょんと触れる。
「ん…?」
視線を落とした先で、私の手にスナリンの小指が触れる。ちょっと距離近かったかな〜、と思って少し離れようとしたら、ただ触れただけの筈だった小指が私の指を絡め取る。びっくりして咄嗟に顔を上げれば空いた手でスマホを弄るスナリンとバッチリ目が合った。
彼は意地悪く瞳を細めるとスマホを口元に運び双子からは見えない様に隠して"しー。"と言う。