第14章 三毛猫の独白。クロ猫の噛み跡
肩を押し返してもビクともしない。そりゃそうだ、コイツは曲がりなりにも男で、運動部で、主将なのだから。私の力が敵う筈もないのだ。
クロはまるで羞恥心をわざと煽るかのように、ちゅ、と音を立て何度か喉元に吸い付き時折歯を立てて甘く噛む。それに凄く背筋がゾワゾワと震えて変な声が出そうになる。唇を噛んで耐えると、軈て頭が離れた。目が合うとそれはもう、まるで獲物を見据えた獣のようで舌舐りする姿に毛が粟立つ。場所が場所だったらこのまま喰われてたんじゃないかと思う程、瞳は雄弁だった。
「…迷惑は掛けてねぇけども。けど自分に好意が有るかもしれない男の嫉妬煽るとこうなるかも、って位は頭に入れておいてちょーだいよ。」
「さ……最低だぁ…!」
「これでホイホイ男甘やかそうとは思わなくなったデショ?」
「それと引き替えにクロの事ちょっと嫌いになったかもしれない。」
「そんなに嫌だった!?」
「私が夜久ちゃんにあーんするより絶対悪質だと思うんですけど。」
「ぐぬ……!」
「………でもまぁ、分かったよ。クロの前ではもうやらない。」
「俺が見てなくてもやらないで貰えますー?」
「そこまで縛られる謂れは無いね。」
「…手厳しい。」
…まさか、クロがここまでして来るなんて思ってなかった。ドキドキした。恐怖はもちろん有るけど、それ以上に触れる熱全部に心臓が煩く騒いだ。私は多分、この熱を受け留める事になったら沸騰して死ぬんじゃ無いかな……。なんて思いつつこの男から逃げる様に自室まで走った。
*三毛猫の独白。クロ猫の噛み跡*
(……ッぶねぇ!家だったら多分止まんなかったな…。春高終わるまでは何もしねぇって決めてたのに。)
(…何か背筋が、背筋が震える。)