第9章 黒猫の笑い声
「……アイツ運動神経悪くないのに、小さい頃から球技関係からっきしなんだよ。」
「この前も体育のバスケでドリブルしたボール吹っ飛んでたもんな…。」
「聞こえてんだよクロ、夜久。」
「「ごめん。」」
振り返り思いっきり睨み付けるとすぐ様謝罪が飛んで来た。小さい頃はクロと研磨とバレーをやりたくて練習をしたのだ。…が、本当に壊滅的に下手過ぎてどうにもならなかった。練習でどうこうなるレベルじゃない。だから私は諦めた。それでも近くでもっと沢山バレーを見たかったし、関わりたかったからマネージャーを選んだのだ。後悔も未練も無い。
「お前ら選手は勿論、コートの上に立つのが1番楽しいと思うし誇りなんだと思うよ。けどマネージャーにはマネージャーにしか見えない景色もある。選手全員の成長を毎日見れるなんて、私か監督たちだけだからな。それに積み重ねた記録が次の試合の糧になる。こんなに楽しいポジション、他にないよ。」
そう、後悔も未練も無い。あるのは歓び、ただそのひとつだけ。
笑って返すと、木兎はポカンと口を開いた。なんだその顔。まるで意外とでも言いたそうだなオイ。
「嬉しいねぇ、夜っくん、こんなバレーバカがウチのマネージャーで。」
「そうだなー。」
「バレーバカって言うな。」
褒めてんだか貶してんだか分からないクロをひと睨みしてからテーピングとサージカルテープを籠に入れる。湿布とエアーサロンパスも入れたし、後はスーパーでドリンク用の檸檬とか買って終わりかな。そんな事を考えていたら急に木兎がズカズカと歩み寄って来た。そして、カゴを持たない方の手を両手で掴まれる。え、な、何怖い。
「ぼく…」
「俺と付き合おう!!!」
大声量が店内に響き渡る。当然、急に荒らげられた声にクロたちだけではなく周囲の客の視線までもが私達に集まった。
いや、というか私今何言われた?付き合おう?付き合う?何に?バレーに?
「ぼッ……木兎さん!いきなり何を…!」
「いやぁ、今なんか頭ん中にぶわーって浮かんだんだよ!とケッコンした時の自分の姿みたいなのが!赤葦もと付き合ったら超楽しそうだと思わねぇ?」