第9章 黒猫の笑い声
「おかえりクロ。ナンパされなかった?」
「彼女居るんでーって受け流して来たわー。」
「彼女居たんスね黒尾さん。じゃあさんはありがたく俺が。」
「はぁ〜?赤葦ちょっと何言ってるかわからないんですケド?」
赤葦くんはいつもの無表情で。クロは笑ってるようで笑ってない作り笑顔で睨み合う。仲良しかよ。ここは私が、私の為に争わないで!とか言うべき?茶番か。
「まだ買い物は終わってないんだから行こー。むしろこっからが本番だからね。」
髪をふたつに結び直しながら、今度はスポーツ用品店まで向かう。人もそこそこ居る中、入口のカゴを取り目的の場所に向かい棚を見渡す。…何でスポーツ店の棚ってこんな高いんだろうな。その為に小さい脚立も置いてあるけども。
「クロ、ボトル取って。」
「無くなったんだっけ?」
「いや、リエーフがボトルの口引っ張りすぎて壊れた。」
「何やってんだアイツ…。」
「そういえば音駒のマネージャーってだけだよな?が卒業したら備品の管理とかどうすんの?ウチも3年しか居ねぇけど。」
「出来れば後釜見付けたいけどねぇ…そっちは探したりしてんの?新しいマネージャー。」
「こっちも特に探してないですよね。1年生も入学したばっかりだし、確かに見つけるなら今だとは思うんですけど。」
「同じだねぇ。どうせならバレーが好きな子が良いなぁ!その方が色んなこと話せるし!…いや、でも全然知らない子にバレーの良さを教え込むのも一興だったり…?」
「何でそんなバレー好きなのに女バレ入らなかったんだ?」
木兎の言葉にピシリと身体が固まる。
…この質問をされたのはいつぶりだろうか。凍りついたであろう空気を察してか、クロと夜久ちゃんは顔を背けた。何も知らない木兎と赤葦くんは首を傾げる。私はなるべく笑顔を口元に浮かべて、口を開いた。
「…いいかい木兎くん。人には向き不向きというものが有るのですよ。」
「アッ、ハイ。」
相当私の笑顔が不自然だったらしい、木兎が冷や汗を流しながら謎の敬礼をした。…別に、別に自分でバレー出来なくてもいいし。私にはあんまり向いてなかったってだけでバレーが好きな事に変わりは無いし。
ささくれた気持ちで前を歩いているとコソコソとした声が耳に届く。