第7章 黒猫、飛び上がる
「ひっ…!!!」
「うわ!!え!?ちょ……!?」
体育館の窓から一瞬だけ差し込む光。激しい雷鳴。落ち着いた筈の心臓はさっきよりも大きく飛び跳ね思わず、目の前の木兎に抱き着いた。まるでまだ私の悲劇は終わってませんとばかりに、今度は外で雷が鳴り響き出す。ゴロゴロと威嚇するように。
「あーあー、鳴り出したな。うわ、つかもう7時だし。」
「え?何?って雷怖いの?初耳なんだけど。」
「うるせえ…夜久ちゃんうるせえ笑うな…。」
「ヘイヘイ!お前意外と女の子らしい所あるじゃないの!木兎さんがぎゅーッてしててやるから安心してイイぞ!」
「木兎さんじゃ余計うるさいと思うんで俺が守ってあげますよ。」
「あかーしヒドイ!俺は賑やかなの、賑やか!!」
ばたついていた木兎の腕が私の背中に回され言葉通り思い切り抱き締められた。いや苦しいし。雷に当たる前にむしろ死ぬ。
「これ以上雨足強くなっても困るし、今日は切り上げるぞー。木兎と赤葦も手伝え。」
「俺守るのに忙しいから…」
「手伝え?」
「アッ、ハーイ。」
にこ、とまさに作ったような笑みを浮かべたクロに木兎の身体がびくりと跳ねたのが分かった。…そうだ、私ももう高3だぞ。未だに雷が怖いとか恥ずかしい。いやでも当たったら死ぬじゃん?怖いじゃん。
「ほら、ヘッドホン貸してやるから。バレーの動画でも見ながら待ってなさい。」
「ウゥ……アリガトウゴザイマス…。」
クロから差し出されたヘッドホンを受け取り、木兎から離れて装着してから自分のスマホに繋げて去年の春高の動画を流す。その音量、爆音。雷なんて気にならなくなる位、引き込んで欲しい。ついでに片付けの邪魔にならないように体育館の隅っこで、なるべく光を見ないように蹲った。傍から見たらイジメの光景に見えそう。
「…なぁ黒尾、アレ大丈夫?」
「いつもの事だから大丈夫大丈夫。夜久はボール片しといて。」
「おー。」
「さん、雷が苦手なんて…やっぱり女子なんだなぁ…!!」
「猛虎さん、顔にやけまくってますよー?」
「雷鳴る度動画見て蹲ってるんですか?黒尾さん。」
「んー?なんだ赤葦気になっちゃう?普段は落ち着くまで俺が頭撫でてやってるけどね。俺も片付けは参加しなきゃなんねーし。」