第5章 黒猫の足跡、2つに並ぶ
「電話だ。」
「誰?」
「木兎。もしもーし。です。」
スマホの通話ボタンを押して耳に押し当てた途端一瞬でクロの表情が歪んだが気にしない事にする。
「ヘイヘイ、赤葦と連絡とってる癖に俺に何もナシとはつれねーなァ!」
「うるさっ!」
「うるさくないの俺は!賑やかと言いなさい、にーぎーやーか!それより聞いたか!?文化祭の話!」
「聞いた聞いた。」
「一緒にやろーぜ!申請書は出しておいたから安心しなさい!」
「は!?」
「黒尾のヤツにも伝えておいてくれよ!じゃあな!!」
「ちょっ…」
超一方的に話したかと思えばぶつっ、と切れた通話。ツー、ツー、と無機質な機械音だけが耳に残る。クロは察したのか額に手を置き、海くんと夜久ちゃんは首を傾げた。
「…もう申請したって。」
「何を?」
「合同で模擬店出しますって申請書。」
「早ッ!こっちの確認無しに!?」
「あの野郎…練習試合で会った日にはどうしてくれようか…。」
「まーまーいいじゃん!申請する手間省けたってことで!」
「よくねーよ!」
ギャンギャン騒ぎながらも1度男共と別れ女子マネージャーの部室で着替え、いつもどおりボトルやタオルなどを買い物かごに詰めて体育館へ到着すると既に後輩達はモップ掛けに走り回り、ネット張りに勤しんでいた。
「おはざーっす、さん!文化祭ですよ文化祭!」
「おはよーリエーフ、今日じゃないけどね?文化祭。」
「梟谷と合同って珍しいね。…面倒なことにならないといいけど。」
「面倒なことってなんスか?研磨さん。」
「…梟谷のバレー部と合同で模擬店、とか。」
「流石研磨、鋭い。」
「え。」
ビクリと固まった研磨の体。その表情はとても複雑そうというか、嫌そう。対照的に、リエーフは嬉しそうに目を輝かせる。
「梟谷と合同で出すんスか!?」
「さっき木兎から連絡があって、既に申請書出したってさ。」
「………俺、クラスの方出るから。」
「ダメだよ研磨逃さない。」
「そーそー、1人だけ逃げようたってそうはいかねーぞ研磨。ほらお前ら、走り込み行くぞ!」
いつの間にか現れたクロが体育館の中へと声を掛けた。呼ばれた部員達はぞろぞろと外へ出ていって残ったのは相変わらず私だけ。いつもの事だけど。