第11章 ぼんじゅうるキノコ人目線
「ふふ、これは涙というの」だけどサツキは、悲しそうに笑って俺の手を両手で握った。「人間は悲しくなると、涙が出るの。だから、もし人間の涙を見たら、優しくしてあげてね」
「いや、でも俺は毒キノコだし」
「あ、そうだったね」それからサツキは俺の目を見た。「調べたんだけど、私には毒の耐性があるの。だから、私には触っていいんだけど、他の人間には触っちゃダメだからね」
「ああ……分かった」
俺がそう答えると、サツキは嬉しそうだった。
だけどそんなことより、サツキから涙が出ていたことが気になった。
「サツキは、今は悲しいのか?」
少しの間があって、サツキは床を見つめた。
「そうね、そうなの」サツキはゆっくりと話してくれた。「あの研究所にはたくさんのMOBがいたの。もっと私がちゃんとしていたら、もっとたくさんのMOBを助けられたかもって。夜になると、思い出すから」
それは、俺があの日森を焼いた火事を目の当たりにした光景と重なる気がした。サツキから聞いたところ、あの研究所も火事になったのだそうだ。研究所にいたカズさんからも聞いたからサツキの言葉は嘘じゃないと思う。
「それは、サツキのせいじゃないよ」
つい出た言葉だった。俺がいつも、自分に言い聞かせていたみたいに。
「そう、だよね」
サツキは困ったように笑っていた。俺はサツキを困らせてしまったのだろうか。人間の感情は、笑ったり涙を流したり困ったりして俺たちより忙しい。
「ありがとう、ぼんじゅうるさん」
そう言ってサツキは俺の頬に唇をつけた。それがなんの動作なのか、当時の俺には分からなかった。ただ、体中がドキッとしたことは、確かに覚えている。